私に何かできるだろうか? ~国際NGOプラン・ジャパンのキャンペーン”Because Iam a Girl ” から、世界の少女たちの”今”について考える~    2015.7.31開催



13歳で結婚。14歳で出産。恋は、まだ知らない。” 

この衝撃的なメッセージは、開発途上国で女の子だからというだけで、過酷な人生を強いられている少女たちの現状を訴えているコピーです。


女性の生き方・働き方を考えてきた Never too Late! では、今回、同じ女性として彼女たちの現実について向き合いました。

 

”Because I am a Girl” キャンペーン


最初に少女たちを支援している国際NGOプラン・ジャパンの ”Because I am a Girl キャンペーンの推進役である、広報担当シニア・オフィサー 久保田恭代さんから、少女たちの置かれている現状とプラン・ジャパンの活動について、様々な数字をもとに紹介がありました。

 

プランは1937年にイギリス人のジャーナリストが戦災孤児を保護したことから始まり、戦後は途上国の貧困の中にある子供たちのために、アジア、アフリカ、中南米を中心に世界51ヶ国で活動しているNGOです。貧困から脱却し自分たちで自立していけるように、教育、保健・医療を中心に多岐に渡る様々な活動を村人達と一緒になって行っています。

 

活動の中で、女の子は男の子に比べてとても困難な状況にあるということが分かってきました。


・サハラ以南のアフリカで小学校を中途退学する女の子の割合は2人に1人 (男の子よりも退学年齢が低い)

・妊娠・出産時に亡くなる母親は1日に800人 (年間約287千人、毎日1,000人の母親が出産で死亡)

・世界中で1年間に人身売買の被害にあう子どもは約120万人。そのうち女の子の割合は80%

・世界貧困人口の約13億人のうち、女性は60~70%を占めている

・世界で女性が所有している資産は、たった1% (資産の相続は男性のみという国も多い)

・性暴力の被害にある女の子は年間推定で15,000万人(そのうち50%以上が15歳以下)


将来の稼ぎ手となる男の子に対して、お嫁に行ってしまう女の子は望まれず、女の子とわかると中絶されてしまいます。無事に生を受けても、様々な面で男の子に比べて差別的な扱いを受けています。その根底にあるのは貧困。わずかなお金の配分先はどうしても男の子に向けられ、女の子は犠牲を強いられているのです。

 

Because I am a Girl”というキャンペーン名称は、貧しいネパールの村で明らかに男兄弟よりも冷遇されている少女の母親に、その理由を聞いた際、「だって彼女は女の子だから」という答えがあったのが発端。社会全体が、それが当たり前として受け入れてしまっている現実がそこにあります。

 

さらに、「13歳で結婚、14歳で出産・・・」とある早すぎる結婚は女の子に不利な社会慣習が原因とのこと。インドやネパールでダウリーと呼ばれる結婚持参金は父親の年収の4年分とされ、女の子が多い家庭は破産してしまいます。このダウリーが若ければ若いほど安くて済むので親は娘を早く嫁がせてしまうのです。そういう社会の中では女の子は「価値のない存在」として発言の権利すら与えられていません。自分の意見を主張することも、自分のことを自分で決めることすらも許されていません。

 

パスポートですら身内の男性の許可がなければ取得できないという社会。そして、そういう社会慣習をもとに法律も出来ていて、法でさえも守ってくれないのです。

 

活動を通してプランが気づいたもうひとつのことが、女の子たちが貧困解決のカギになるということ。と、これもまた、そのエビデンスとして世界銀行や有識者の発表している数字の紹介がありました。


・女の子が一年長く学校に通うと将来の収入が20%アップする。

・女の子が中学校に通うとHIVに感染する確率が1/5になる。社会の負担が減る。

・女の子が初等教育をきっちり受けると、将来生んだ子供が5歳以上まで生き伸びる確率が50%アップ。

・インドでは中学校の教育を受ける女の子が1%増えると国のGDP55億ドル増える。

・男性より女性に融資したほうが子供の就学率がアップする。(これにはちょっと男性参加者から苦笑い)


プランはこの”Because I am a Girl”キャンペーンで、女の子たちが社会の中で「発言権」を持ち、「決定権」を持てるように力をつけていくことを支援する活動を続けていると、実際に久保田さんが現地で会ってきた女の子たちとその支援のプロジェクトのいくつかが紹介されました。


アフリカの国トーゴの女子サッカーを支援するプロジェクトでは、まずは村の長老を説得するところから始めました。最初は大反対していた村人たちも、村の代表として活躍する彼女たちを最後は応援、彼女たちも注目されることで自信をもつことができたと嬉しそうに紹介されました。

 

一方でインドの人身売買にあった女の子たちを保護するシェルターの話は、辛い体験だったと紹介されました。だまされたり、お金のために親に売春宿に売られてしまった女の子たち、心も身体も傷ついて自分の存在を肯定できない彼女たちに、小さな役割(お掃除や小さな子の世話など)を与えることで、自尊心を取り戻してもらい、シェルターから外の日常世界に戻る手伝いをしています。 


パキスタンでは非公式学級を運営。2年間でのかなりの詰め込み教育ですが、教育の機会を得た女の子たちは必死になって猛勉強しています。マララさんで有名なパキスタンの女子教育問題。女の子が学校へ通うことを良しとしない人達が多く、彼女たちの通学を困難にしている。 

学校までたった20分の道のりが、どれほどたいへんなことか、日本で生活している私たちには簡単には想像できない世界です。学校へ通うことを家族の中の男性が反対しているケースも多く、許可がおりても、家事や育児を完璧にこなせるならという条件付きという話は、どこかの国と同じだと久保田さん。


パキスタンでは、そもそも働いている女性が少なく、女の子たちのロールモデルがいない。彼女たちの意識も含め、社会が変わるのには時間が必要だということでした。

 

最後にいつも伝えているというアリス・ウォーカーの言葉の紹介で久保田さんは話を締めくくりました。

テレビ制作の立場で現地を取材して


続いてもうひとりのゲスト、テレビ東京 ディレクター 祖父江里奈さんには、取材現場で目にしたものを報告していただきました。仕事ではバラエティを担当していて、特にこういった途上国の問題に詳しいわけではないが・・・と切り出された祖父江さん、テレビ制作の目線で、今回の取材について語ってくださいました。

 

ちょうど日本女性の「自由な恋愛、奔放な性」について取材をしていた際に目にした「13歳で結婚・・・」のコピーに衝撃を受け、”Because I am a Girl”のサポータになりました。そんなときにある番組でこの問題を取り上げることを提案。

運よく上司の許可を得て取材することになりましたが、辛い経験をした女の子達は男性を怖がり本音を話してくれないとのアドバイスを受け、女性スタッフだけのクルーで取材に臨みました。

 

取材先はネパールの中でも特殊な言葉を使う地域で、その言葉からネパール語、ネパール語から英語、そして英語から日本語と通訳ひとつをとっても苦労しました。現地の通訳は25歳の女性でしたが、ネパール人で大学へ行って通訳職にある本当に希少なバリキャリの女性でしたが、そんな彼女でさえ、18時になると父親から遅いので帰って来いと電話があり、仕事の途中でも帰ってしまうのには驚かされました。その彼女も「将来、自分は父親の決めた相手と結婚するだろう。この年になってしまってきっとダウリーがとても高くなるだろうから申し訳ない」と言っていました。この国の風習の根強さを実感した瞬間です。

 

世界の最貧国のひとつであるネパールは識字率が65%。まだまだ多くの人が教育の機会に恵まれていない国です。そしてほとんどの女の子たちが10代で結婚させられている。現地で出会った中で一番悲惨だった少女は、17歳ですでに3度目の妊娠中で、身体への負担が大きいためか見るからに体調が悪そうでした。その夫は家で昼間から酒を飲んでいる。

そんな子をたくさん目にしました。

 

そういう彼女たちに、今望むものは?と聞くと皆、学校へ行きたいと言う。学校へ行き、手に職をつけ、現金収入を得て家族を支えたいと。久保田さんの話にあったように女性が学習の機会を得ることが貧困から抜け出せるカギとなるのです。

 

今回、番組を制作して感じたことは、こういう事を世の中にテレビで伝えるのが如何に難しいかということ、と祖父江さん。

 

テレビ関係者としては、やはりテレビで伝えたい。けれどもテレビは視聴率が大事。数字がとれるかを気にする世界なので、こういった事を番組として取り上げるのが非常に難しい。今回はたまたま企画が通ったけれど、普通はなかなか採用されないと、業界ならではの悩みを紹介。

そして、できるだけ多くの人にこの現実を知ってもらいたい。目先の視聴率に惑わされずに発信していきたい。それが自分の使命のひとつでもあるのではないかと思っていると結んでくれました。


日本も根っこの部分では同じ問題を抱えている


質問タイムでは、皆さん、現地の状況やプランの活動について次々と質問が出て、あっという間に時間が過ぎていきました。その後、日本のジェンダーギャップの話からは、私たちの抱える問題についてお話しいただきました。

 

日本のジェンダーギャップ指数は、142ヶ国中、104位。これは政治と経済、教育が基準ですが、日本は女性の議員の数が圧倒的に少ない。経済活動においても決定権のある立場にいる女性が少ないのが現状です。私たちが支援している国の方が高い。つまり、途上国の女の子たちに発言権や決定権がないと言ってきたけれど、日本の女性たちも自分たちの暮らしを決める政治や経済の上では発言権や決定権がないとも言えます。ジェンダーの問題は、途上国ほど露骨ではないけれど、根っこの部分はかなり似ているのではないでしょうか。

 

途上国の女の子たちの支援にあたっては、上から目線で助けようではなく、同じ問題を共有している仲間として一緒に頑張っていきましょうという気持ちで支援していただけたらいいなと思っています。と久保田さん。

 

一方、テレビ業界は完全なる男性社会だと、祖父江さん。

 

今、AD(アシスタントディレクター)は女性が多いです。これがディレクターやプロデューサーとなると、女性はドロップアウトしてしまう。それは、テレビの世界が土日も仕事、深夜の打ち合わせも日常的にあり、家庭を持った女性、特に子供を持った女性にはなかなかつとまらないからです。これがテレビ業界を男性社会にしている大きな原因です。女性ならではの感性で素晴らしい番組を制作する女性がいるのに、この働き方のしくみを変えない限り女性が長く活躍することは難しいと思います。

自身も「安心してください。こいつは当分結婚しないですから」と取引先に紹介された経験を持つ祖父江さん。テレビ業界におけるジェンダーの問題も根深いものがあるようです。


日本の女性の活躍が途上国の女の子たちの未来につながる

最後に、私たち日本の女性の活躍が途上国の女の子たちの未来につながるという点についてお聞きしました。

 

日本はアジアでも経済発展した国なので、アジアの途上国がモデルとしている。

日本で女性が、パートタイマーだからご主人の稼ぎの補完だからと安く使われると、それが他の国でもまねされてしまいます。だから日本の女性たちが頑張ってくれることがアジアの途上国の女性たちにとっても大事になるのです。

 

一方、祖父江さんは日本国内の若い女性たち、これから社会で活躍していく若い女性たちのためにも頑張って道を開いて行きたいとおっしゃっていました。

 

閉会にあたり久保田さんから、彼女たち途上国の女の子たちは世界を変える力を持っている貴重な存在、変革者です。そういう認識で彼女たちを応援してくだされば嬉しいとの言葉がありました。



様々の要素が絡み、まだまだ語りつくせない問題。またぜひ続きを開催したいと思います。

久保田さん、祖父江さん、そして参加の皆さん、ありがとうございました。

 


■ プレゼンター:
・ 国際NGOプラン・ジャパン    シニア・オフィサー 久保田恭代

・ 株式会社テレビ東京 ディレクター 祖父江里奈

 

■ 協力: 公益財団法人プラン・ジャパン

 

■ 開催場所:3×3ラボ